アンビグラムの作り方 基礎編#1「アンビグラムを作ってみよう」
※この記事は去年の一連のツイート「アンビグラムをつくる」のこってり版です。忙しい方はツイートの方をご覧ください。
※18.10.28 大幅に加筆修正しました。
こんにちは。アンビグラム作家のフロクロです。
突然ですが皆さんは「アンビグラム」というものをご存知でしょうか。
まぁ「アンビグラム 作成 [検索]」とかでここにたどり着いた人はご存知かもしれませんが、一応説明しておくと、「回転させたり、鏡写しにするなどした2通りの方法で読むことができる文字アート」のことですね。
例えば拙作「バケツを引っくり返したような雨」は、「雨」という漢字をひっくり返すとカタカナの「バケツ」になります。読めますでしょうか。
さて、この記事は「アンビグラム」の作り方を解説したものです。
アンビグラムは「なんか特殊なセンスのある人しか作れないんじゃないの」などと思われがちですが、実際は観察力と粘り強さがあれば、案外誰にでも作れちゃうものなのです。
というわけで、以下で私がアンビグラムをどんなふうに作ってるかを紹介していこうと思います。
完成までの主な手順
【Step0】アンビグラムの種類を知る
【Step1】単語を探す
【Step2】対応付け
(私の他の作品はpixivに置いてあります。ぜひ。)
【Step0】アンビグラムの種類を知る
アンビグラムを作る前に、まずアンビグラムにどんな種類があるのかを知っておくことが重要です。アンビグラムはひっくり返すだけではありません。90度回転、鏡写し、図地反転etc……
この記事でアンビグラムの種類をすべて紹介すると長くなってしまうため、こちらの記事にまとめました。
アンビグラムについてまだ良く知らない方は、ぜひこちらからお読みください。アンビグラムの名作と合わせてその手法を紹介しています。
さて、アンビグラムの種類を知ることがなぜ重要かというと、それは一つの単語に対して様々な見方ができるようになり、アンビグラムが完成する確率が上がるからにほかなりません。
例えば、「虹色」という熟語は180度回転では作りづらいですが、「虹」を90度倒して「色」にする、というタイプで作るとピタッとハマります(下図)。
いろいろな手法を知っておくことで、一つの言葉にも様々な可能性が見えてくるのです。
アンビグラムの種類が一通りわかったら、いよいよ制作スタートです。
【Step1】単語を探す
アンビグラム制作で行う最初の工程はズバリ「素材となる単語を探す」です。
「この単語はひっくり返したらうまくいきそうだな」「これ鏡写しでアンビグラムにできないかなぁ」と、先ほどの「アンビグラムの種類」を意識しつつアンテナを張りめぐらせて言葉を観察しまくるのです。
しかし、いきなり「言葉を観察しろ」なんて言われても難しい。
そこで、一体どんな言葉が「アンビグラムの素質がある単語」なのかを見ていきたいと思います。
アンビグラムの素質
以下からはわかりやすくするため、180度回しても同じ文字列になる点対称アンビグラムに話を絞って進めていきます。
単語には「アンビグラムの素質」があるものとないものがあります。素質が抜群に備わっている単語は楽にアンビグラムが作れて、逆に素質のあまりない単語は作るのがめちゃくちゃ大変になります。
素質のある単語の代表例が「道具」です。横書きだと分かりづらいですが、縦書きにしてちょっといじくると……
ホラ!!!もうこれアンビグラムでしょ!!
このようにもとの単語を殆ど崩さずに成立するアンビグラムは「発見的作品」とか「自然アンビグラム」とか呼ばれます。が、流石にここまで素質ある単語はそれほど多くありません。
素質のあるなしは字の「密度」と関係します。
例えば「一」をひっくり返すと「鬱」になるアンビグラムを作ろうと思ったら、これは字画の密度の差がありすぎて大変ですね。無理ですね。
一方で「予」をひっくり返すと「告」、「昭」をひっくり返すと「和」、とかなら二文字の密度が近く、文字の構造もちょっと似てるので比較的アンビグラムにしやすそうです。
実際に作ってみるとこんな感じです。
↑『予告』 180度点対称
↑『昭和』 180度点対称
どれが「アンビグラムの素質」がある単語なのかは、いろんな作品を見たり、手元で実際に文字をいじっているとだんだん掴めると思います。
【Step2】対応付け
単語を決めたら、実際にアンビグラムを形にしていく作業です。「道具」のようにほとんどいじる必要が無い場合は別ですが、大抵のばあい文字と文字が同じ形になるよう整える作業が必要です。私はこの作業を「対応付け」と呼んでいます。
ここでは具体例を交えて対応付けのやり方を見ていきましょう。
【例1 『アイスクリーム』】
1.とりあえず書く
まずはカタカナの作例。「アイスクリーム」の180度点対称を作ってみましょう。
とりあえず紙に「アイスクリーム」の文字を書いてみます。紙をぐるぐる回しながら逆さ文字を並べて書いてみて、見比べましょう(ヨコ書きとタテ書きどちらも試すのが大事)。
2.似てるところを探す
逆さ文字と通常文字で似てる部分が無いか探します。すると、オッ、タテ書きのときに「ア」と「ーム」がピタッとハマりそうじゃないか!!
3.余りを抜き出して見比べる
「ア……ーム」が済んだので残りの「イスクリ」を抜き出して、また見比べてみます。
これはもう1文字ずつ対応付けしてけば良さそうですね。紙を回しながらたくさん書きまくって、適当に中間を探りましょう。
4.清書
最後の作業。手書きなりパソコンなりで対応付けができたアンビグラムを清書します。フリーソフトのinkscapeとかAdobeのイラレとかを使うといいと思います、が、ここはタイポグラフィの領域なのでここでは省き、別の機会に譲りたいと思います。
もう1つ、今度は漢字の作例を見ましょう。
【例2 お題:「妖怪」】
今度は単語とアンビグラムの形式を決めるところからやりましょう。前にTwitterでお題を募集したときに「妖怪」というものを頂いたので、今回は妖怪の名前で作ってみたいと思います。
1.たくさんの単語を観察して、題材を探す
アンビグラムを作るにはまず素材となる単語が必要なので、探しに行きましょう。
今回はテーマが「妖怪」なので、Wikipediaの妖怪一覧から探そうと思います。
このページ、なんかやたら詳しいな……
この中から字の密度が近い(かつ自分が知っている)妖怪を探します。
「猫娘」「般若」「貧乏神」「物の怪」あたりは字ごとの密度/ひっくり返したときの密度が近そうです。
紙で軽く書いてみた結果、「猫娘」や「物の怪」はキツそうなので「般若」で頑張ってみることにします。
2.とりあえず書く
アンビグラムは常に手元の紙に書くところからスタートします。
とりあえず180度回転と90度回転で般若を書いてみました。
すると、オッ、なんか90度回転のときの赤で囲った部分が何となく似てませんか?
似てないって?似てなくても、歩み寄れば和解できそう、くらいの近しさを感じはしないでしょうか。というわけで今回は「般若」で90度回転アンビグラムを作っていくことにします。
3.共通した字画を探して、寄せる
ここからはお待ちかね、対応付けの作業です。今回はやや険しい戦いを強いられそうな予感がします。
まぁとりあえず白い紙を用意して書いてみましょう。
漢字でアンビグラムを作るときは、私はまず題材の漢字をくずし字で書いてみることにしています。何故かというと、文字を崩して書いてみることで「どの字画が含まれていれば”その字”と認識できるのか」、すなわち「文字の限界」を探ることができるからです。これについては次回くわしく書きます。
「般」と、90度倒して「若」をくずし字で書いてみました。汚いですが、「般」も「若」もギリギリ読めます。これを参考にしながら、2文字の間を取っていきましょう。
ここからはひたすら根性。2つの文字がバランスよく成立するポイントを模索しまくります。
アイスクリーム同様紙を回しながら、妥協点を探ります(下に行くほど後に書いたもの)。すると、最終的にはそこそこ「般」と「若」が同居してそうな字画が現れました。
同じ画像を90度回すとこんな感じ。葛藤の歴史です。
もうひと押しブラッシュアップして完成を目指しましょう。
◎をつけたものをもう一度書き直してみます。
読める読める。
いい感じですね。ちなみにこのときにテクニックとして、「般」と「若」に共通する字画(線)は太く、余ってる字画はひかえめに描いています。これについても次回くわしく書きます。
4.清書
最後にイラレに上の写真を取り込んみ、清書して完成。
『般若』90度回転。
読めますかね。わりと読めそうですね。良かった~。
これを更に骨組みとしてタイポグラフィ的な装飾を加えるとこんな感じです。
この最後の装飾の工程については、やはりアンビグラムとは別の話になるので別の機会に話します。
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さて、以上がアンビグラム制作のざっくりとした流れでしたが、いかがでしょうか。アンビグラムというのが「直感が天から降りてきて閃く」ようなものではなく、地道な作業の集まりによって完成するものだということがお分かりいただけたでしょうか。
最後に、これを読んで「さっそくなんか作ってみたい!」と思った方にひとつ宿題を出したいと思います。
「雑誌」で180°回転アンビグラムを作ってみてください。対応付けの練習です!
(完成したものはぜひ、Twitterでハッシュタグ「#アンビグラム講座」をつけて投稿してください。)
今回はこれまで。次回は対応付けについて詳しくお話します。