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映画『プロメア』の驚異的に精緻な設定とモチーフを読み解く

 

映画『プロメア』を見た。とにかく熱いストーリー、目を見張る映像技術、鳥肌の止まらない演出、愛着がわくキャラクターたち、どこを取っても最高な映画。みんな観よう。
 
特に感動が止まらないのは、巨大なジグゾーパズルが組み上がるようにキレイに繋がっていく緻密な設定群。
 
というわけで、以下では設定とモチーフに焦点を当てて、具体的に『プロメア』のどのへんがスゴいのかを分析/考察する。
 
もちろんネタバレ満載なので『プロメア』まだ観てない人は絶対に読まないように。
 
 
 
 
 
 
 

■モチーフと設定

▼3つの図形

『プロメア』のオープニング映像では、まず三角形が四角形に押し込められる映像が流れ、その後丸のイメージが登場する。『プロメア』で最も重要なモチーフはまさにこれら3つの図形、即ち「三角形」「四角形」、そして「丸」なのだ。それぞれ詳しく見ていこう。
 
まず三角形と四角形は
 
  • 三角形……プロメア・バーニッシュの象徴
  • 四角形……火消し・体制の象徴
 
という役割を持っている。これは気づいた人も多いのではないだろうか。
 
三角形が用いられた主な箇所は、プロメアの火の粉、バーニッシュの死灰、プロメティックエンジン(後述)、リオを射出する砲台、マグマ(三角形のポリゴンで構成)、リオが氷の池に落ちた際の蒸気、プロメティックエンジンで開いたワープホールなど。これらは全てバーニッシュ・プロメアに関係するものだ。
三角形は鋭角でトゲトゲしいイメージであり(冒頭のストレス/抑圧との連関)、また作中で度々登場する"火山"の記号でもある。『プロメア』のロゴのMも、大きい三角形から小さい2つの三角形を切り出すことで構成されている。(我々の住む世界で)建造物の窓に描かれる赤い三角形は「消防進入口」を表し、人を殺さず逃げ道を用意する「バーニッシュの誇り」にも通じている。(赤い三角形はレスキューのメカにもデザインされている)
 
四角形が用いられた箇所は、クレイが作った街の建造物(とその屋上)、氷(四角形のポリゴンで構成)、フォーサイト社の紋章、火消しのメカニックデザイン、クレイの研究所(とそのエレベーター)など。火消しや体制側に使われる。
四角形は、理性的で整然と敷き詰めることができる「四角四面」のイメージ。規律や世間体を重んじるクレイのキャラクターを表現している。(cf.リオ「僕らよりも先にその凝り固まった頭を冷やせ!」)
 
これにより、オープニングの「四角形が三角形を押し込め、歪める映像」の意図がわかる。あれは、体制によるバーニッシュの抑圧を意味しているのだ。
 
そして作中には、三角形と四角形が共存する箇所も登場する。これは主にバーニッシュ/プロメア側と体制側の交錯(特にクレイ)を意味している。具体的には、プロメポリスの建造物の角が削られて青い三角形が現れていたり、クレイの紋章は三角形が組み合わさった四角形となっていたりする。(ちなみに、作中で用いられるアルファベットのフォントは四角形から三角形/四角形を切り取ったデザインで統一されている。)
 
次に、もうひとつの重要なモチーフ「丸」について。丸は以下の役割を担っている
 
  • 丸……共存、物語の決着
 
つまり「丸」は物語が"丸く"収まっていくさまの象徴として用いられているのだ。
 
丸が初めて印象的に使われるのはデウス博士の研究室。蒸発した池の形が丸で、研究室も球の形をしている(ガラス張りは三角形の敷き詰め)。移動用のエレベーターも球形で、内部のライトも丸く、研究所の画面も全て丸い(途中に露骨に水玉コラを意識した演出があるが、これも比較的地味な「丸」というモチーフを強烈に印象づけるための装置になっている)。彼の作ったメカ(デウスエクスマキナ)も丸っこく、リオが乗るポットも球形……今までほとんど登場しなかった「丸」というモチーフが、突然至るところに出現する
 
序盤のニュースでバーニッシュの隔離政策と、それに反対するデウス博士が登場し、博士が対立の解消を望んでいることがわかるが、ガロたちが研究室を訪れるシーンを境に「共存」に向かって物語が終結していく。博士の作った「デウスエクスマキナ」はその名の通り、(クレイが葛藤したような)極めて解決の困難な局面を丸く収めてしまう装置として活躍する。
 
そして「三角」と「四角」と「丸」が一箇所に集まるとき、物語は収束に向かっていくのだ。 これらの図形がひとつに合わさったものといえば、物語の終結に重要な装置であるプロメティックエンジンだろう。回転部分は丸、フレームは三角、ボディは四角で構成されそれらが積み上がっている。ただ、それだけでは足りない。初期状態では、セントラルポッド三角形で構成された正八面体(横から四角形に見るカットがある)で、丸が不在なのだ。しかし、そこにコアとしてデウスエクスマキナの球形ポットが加わることで3図形が揃い、初めて解決策が見出されていく。リオとプロメアが意思疎通し、「燃やし尽くす」という手段をとるのだ。
 
そういえば途中、平穏な生活を望むバーニッシュとしてピザ屋の青年が登場するが、彼がピザ屋なのも偶然ではない。「ピザ」というのは三角形のピースが円を構成している。つまり「バーニッシュ(=三角)」も「平穏な共存(=丸)」が可能である、ということを暗示しているわけである(彼のTシャツには円形の状態から一枚だけ切り取られたピザの絵が描かれている)。
 
さて、序盤から太陽のレンズフレアが「四角形」で描かれているのを印象的に感じた人も多いと思われる。なぜ太陽の反射が四角形で描かれているのか。それにも理由がある。
クライマックス、一惑星完全燃焼でガロデリオンの炎が「丸」を象徴する太陽に届くが、その際に太陽の表面に描かれる模様は「三角形」となっている。そう、ここでも太陽を中心に「丸」「三角」そしてレンズフレアの「四角」を揃えることで、物語の決着が表現されているのだ。 その証拠に、一惑星完全燃焼の後のラストシーンのレンズフレアは四角ではなく「丸」で描かれている(ラストカットの拳を合わせるシーンにも丸いレンズフレアが登場)。こうして、物語は大団"円"を迎える。
 

命名関連

名前については曖昧な部分が多く憶測が大半を占めるので、以下はホントに雑考。
 
「プロメア」「プロメティックエンジン」「デウス・プロメス」などの命名は全てギリシャ神話の火の神「プロメテウス」による。
 
ガロは作中で「燃える火消し魂」という印象的な撞着語法(矛盾表現)を度々用いる。それを意識してか、『プロメア』の火消しサイドのキャラクターの名前は、火消しにもかかわらず火にまつわるものが多くなっている。隊長の「イグニス」ラテン語「炎」「ヴァルカン」はおそらく「ヨーロッパの火薬庫」からの連想。ルキアラテン語「光」「ガロ」「火炉」からのもじりだろうか。ちなみに「ガロ・ティモス」の「ティモス」ギリシャ語で「魂」
 
次にバーニッシュサイドの命名を考えたい。
バーニッシュサイドは、消防サイドと対照的に火消しに関係する単語が名前に入っている。ときに、焚き火を消すときにその方法は2通りあって、ひとつは「水」をかけて温度を下げて冷却するもの、もうひとつは「土」をかぶせて火を閉じ込めて消す方法だ。「リオ」スペイン語「川」だが、激昂ののち水に落ちて頭を冷やし、ガロとともに火消しに臨む態度に対応する(「フォーティア」ラテン語「勇気」)。一方で「クレイ」は英語で「粘土」(ただしスペル違い)だが、衝動を自分の内側に押し込めることでプロメアを抑え込む方法が土による消火に対応している。クレイが突然「滅殺開墾ビーム」土による「火消し」を図ったこともこれで説明がつく。リオの「炎から灰へ、灰から土へ」というセリフも、火と土の対立を示唆する。
 
 追記:人名の由来研究についてはいいまとめがありました。

▼その他モチーフに関する端書き

 

●アメコミ

ビビットな色使い、炎に用いられる色収差、キャラ紹介画面でのポップアート風のハーフトーン、クレイの回想シーンの絵のタッチ、マッドバーニッシュの変身に見られるヴィラン風のデザインなどは全てアメコミの文脈からの借用となっている。

●火消し
江戸の火消し隊、歌舞伎の見栄のような和風モチーフがてんこ盛り。ガロの「メ」のバンドは江戸時代の消防団「め組」がモチーフであると明かされている。ラストの「燃やしきって消す」という解決法は江戸の火消しの手法そのままである。
 
※タトゥーだと思っていた「メ」はバンドとの指摘を頂いたので修正致しました。失礼しました……!
 
●今石×中島の過去作からのモチーフの借用
・無茶で破天荒で命名したがりですぐに見えを切る熱血漢……というガロキャラク
ーは『天元突破グレンラガン』のカミナに通じ、それを諌めるアイナのポジションもヨーコを彷彿とさせる。そしてコアを破るドリルはまさにシモンではないか!
・隙間の少ない書体を画面いっぱいに使い「テロップごと中継」「字幕を吹き飛ばす」などの遊びのある文字演出が頻出する様子は『キルラキル』を思い出す。「人類を守るために多少の犠牲を払ってでも信条を押し通すが、表面では規律を厳格に守る」というクレイのキャラクターは鬼龍院皐月に近い(白い服装も)。
 

▼キャラクターデザイン

TRIGGER作品に出てくるアシンメトリーなデザインのキャラクターは、規則を守らず、旧来の凝り固まった価値観を打破する存在として描かれている。グレンラガンのカミナ、キルラキルの纏流子、そしてプロメアのガロ。
 
マスコットキャラクターとして小動物(ヴィニー)が出てくるのもTRIGGERではおなじみの演出(グレンラガンのブータ、キルラキルのガッツ、パンストのチャック)。
 
 
ついでだから脚本と映像についてもちょっと語らせてくれや。
 

■ついでに脚本について

▼絶対的正義の不在

『プロメア』ではまず「正義vs悪」というシンプルな二項対立を破壊するところから物語が始まる。はじめに「いかにも悪そうな」デザインであるマッドバーニッシュが登場し、そこに「いかにも正義そうな」レスキュー隊が駆けつけ、対峙する。しかしマッドバーニッシュの中から出てくるのは「自分の正義を持ってそうな」リオで、逆にレスキュー隊の上層部からは「いかにも悪そうな」ヴァルカンが登場。序盤で正義と悪の構図が入り乱れ、この作品が単純でないことを示唆する。
 
『プロメア』の大きな特徴は、「視聴者が共感できる正義」が登場しない点だ。体制(クレイ)サイドは「バーニッシュを踏み台にし、大半の人間を犠牲にすることで人類を存続させる」、バーニッシュ/プロメアサイドは「人は殺さず、しかし抗いがたい内なる叫びに従って街を燃やす」という思想。どちらも正義/悪と一刀両断できない複雑さを持っていて、そこをどう調停していくかが見どころになっている。(このシンプルな二項対立と絶対的正義の崩壊というテーマは『デビルマン』『寄生獣』『進撃の巨人』『東京喰種』と様々な作品で見られるテーマ。)
 

▼抑圧と「個」を取り戻す物語

『プロメア』では「名前を呼ぶ」という行為が象徴的に使われる。作中でマイノリティであるバーニッシュは、「バーニッシュ」であるというだけでひとくくりにされ、個性を捨象されている(「バーニッシュの焼いたピザなんて食えるかよ!」)。それに対するアンチがリオで、リオは必ず相手を名前で呼び、自分を名前で呼ぶことに執着する(「リオ・フォーティアだ。一度聞いたら覚えろ、ガロ・ティモス」)。一方でクレイは相手を名前で呼ぶことは少なく、ガロを名前で呼ぶのは(表彰を除くと)おそらく一回(激昂する場面)、リオを名前で呼ぶのもおそらく一回のみ。ガロはどうかというと、前半は「マッドバーニッシュの親玉!」「旦那」「司政官がそんなことするわけがねぇ!」などと相手を名前で呼ばないが、後半には「どういうことだ、クレイ!」「リオが俺を守ってくれた」と名前で呼ぶようになり、内面の変化が演出される。このようにして、バーニッシュは「個」としての、名前を持った自分を取り戻していく。
 
この「マイノリティ差別からの脱却」のサイドストーリーとして、アイナが「アイナ」としての個を取り戻す物語も並行して流れている(「エリスの妹……」→「アイナはアイナだ」)。
 

■すこし映像表現について

▼CGと手描き

精度の高いCGと柔軟な手描きを組み合わせた映像表現は見事。ダイナミックに視点を回転させるカメラの長回しはCGでなければできないし、レスキュー隊がピザを食べるシーンのようなコミカルな表情/動きは手描きでしか出せない。
序盤でガロがヴァルカンに楯突く場面では、CGで描かれた二人を表情の見えないアオリの視点から回し、そこに漫画のようなコマ割りで表情を描くことでダイナミックさとコミカルさを併せて良く表現している。CGとセル画併用でないとできない面白い手法。
 

■その他好きなところ

・レスキュー隊の出動のときのそれぞれのロッカーにめちゃくちゃ個性出てるの好き。
・ルチアがアケコンでメカを操作してるの好き。後半のシーンでは横持ちコントローラーで操作しててそれも好き。
・戦闘中にルチアと画面通話してる最中に衝撃で中継切れる演出好き。
・ガロがクレイに「左手を犠牲にして救ってくれた……」と言ったときにクレイの左手が元の状態になっていることで、クレイが実は「肉体が永遠」なバーニッシュであることを予感させる仕組みになってるの好き。
フォーサイト財団のロゴ(正方形の中にFを2つピッタリはめ込んだデザイン)好き。ちなみにクレイの椅子もFが組み合わさったデザイン。
・みんながインフェルノボルケーノマルゲリータピザ食べてるときの表情好き。
・リオが前面装甲を突破できなと悟り、下に滑り込んで左後ろのタイヤ(or下部の装甲の薄い部分)を狙って攻撃するの好き。
デウス博士の研究所のエレベーターが止まる部分でみんながガクってなるの好き。
・研究所の画面でアイナを水玉コラしちゃうの大好き。
・ルチアがリオデガロンを見て「どういうことなのよーっ!」と嫉妬する様子から、ガロがなんだかんだでみんなから愛されているのが垣間見えて好き。
・プロメディックエンジンが壊れてプロメポリスが落下して、グレイザーXとリオデガロンが宙に浮くシーン好き。
・リオが口づけで炎を送り込むときと違って、ガロが送り込むときはちゃんと気道の確保してからやってるの好き。人工呼吸より先にちゃんと(両手で)心臓マッサージするのも好き。
・アイナかわいい。
・リオもかわいい。
・全部好き。
 
 
 
 
 
 
 
 
・全部好き!!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
おわり

 

 

 

 

 

謝辞

 見終わったあと餃子の王将に入って語り合った友人たちへ。ありがとう。